「スニーカーを買いに行くわよ。」
そう言われて連れ出された僕は、車の中からうるさそうな街中を見渡す。
正直、ダウンタウンは嫌いだ。
人間がただ集まって、よくわからない言葉を交わしてるから。
日本に住んでいた時も人との会話が苦手だった。
アメリカに引っ越してきたばかりの僕にとって、そりゃ英語のコミュニケーションなんて、、
うぅぅ~なんか身震いがする。
我慢できなくなった僕は、横にいる美人ドライバーに話しかけた。
「チャールズ先生、到着までまだまだ時間かかりそうですか?」
彼女は高笑いしながら、答えてくれる。
「いいスニーカーショップはダウンタウン中心部にあるとは限らないわよ、トイレでも行きたいの?」
このチャールズ先生は、僕の学校で、日本語が話せる唯一の教師だ。
だからまだ話しやすい。そう”まだ”だ。
クラスに馴染めない僕を気遣ってくれたのか、今日は学校の代わりにスニーカーショップに連れ出してくれている。
「そういえば、先生って学校サボってもいいんですか?」
教師と生徒、二人で学校をサボっている事実は、日本だと大罪だ。アメリカは違うのだろうか。
「ジョシュ、知らないの?今日休校よ、記念日かなにかで」
そう、このチャールズ先生は僕をジョシュと呼ぶ。
ちなみに、本名はばりばりの日本名だ。
というか。
おい待て、嘘だろ。もし今日が休校なら、家でゆっくりしていたかった。
「え、、、じゃあ僕帰っても、」
「さて着いたわよ。」
話を遮るように、先生が車を止める。そして、その目の前にはスニーカーショップが、、、
うん、スニーカーショップ。
いや待て、これスニーカーショップか?
薄汚れた建物がそこにはあった。
アントニーおじさん
「先生、これコンビニじゃない?」
目の前には、いつ掃除したかもわからない汚い入口と奥にジュースが置いてある冷蔵庫、、のようなものが見える。
どう考えたって普通じゃない。絶対にやばい場所だ。
完全に警戒心MAXの僕を見かねたのか、チャールズ先生は、一番重要な説明をしてくれた。
「ここは、私の親戚の店なの!」
うん、それを早く言ってくれ。
先生曰く、ここはコンビニが表向きで、裏にスニーカーショップが広がっているらしい。
「久しぶり~アントニーおじさん~~」
チャールズ先生は話し終えてすぐお店に入ってしまった。
僕は深呼吸する。
たしかに見た目は完全にやばい店だ。映画とかだと喧嘩が起きてそうな感じだ。
でも大丈夫。なんとかなる。アメリカは怖い場所だってテレビで言ってたけど絶対大丈夫だ。
チャールズ先生の親戚の家なんだから。
不安をかき消す言葉を並べてから、僕は意を決して店に入った。
「よぉ坊主。お前日本語しか話せないんだってな、友達作るの大変だろう」
褐色のでかい人がこっちを見て話してる。
入った瞬間すぎて心臓が飛び出るかと思った、、
でもこの人も日本語話せるのか。
「どうも」
「アントニーおじさん聞いて!この子スニーカー好きな子なの!」
チャールズ先生がうきうきと話し始めた。
待て待て待て、僕がスニーカー好き?
片手で数えるほどしかスニーカー持っていないのに?なんで?
初対面の人に嘘をつかれるのは勘弁だ、、
僕が否定しようとすると
「そうか、そうか!坊主スニーカー好きなのか!じゃあすぐ奥に連れて行ってやらないとな。」
もう僕の話なんて聞いちゃくれない。
あきらめてその場をやりすごそう。
今日以降、この店に関わらなきゃいい話だ。
アメリカには無理やりな人が多いと思う。
まだちゃんと話したのこの二人しかいないけど。
アントニーおじさんはごそごそ鍵を出し、奥の扉へ向かった。
チャールズ先生は、それはもう軽快な足取りでおじさんの後を追う。
ほぼスキップみたいな歩き方をしている。
僕はというと、強いて言えばゾンビみたいな歩き方になっていたかもしれない。
先生との距離が広がっていくからほぼ間違いないだろう。
ガチャガチャと音がした後、アントニーおじさんはこう言った。
「ようこそ、ここがおれらの天国だ。」
天国
チャールズ先生に続きおそるおそる入ってみると、、、、
するとそこには、色とりどりのスニーカーが所狭しと並んでいる!!!!!
なんだこれは、、、
僕は、初めて見る景色に驚いた。
ビューンって鳴りそうなマークからNのマーク、3本ラインまで、色んなスニーカーがキレイに陳列されていた。
「ジョシュ、どう?この部屋、最高でしょ!?」
チャールズ先生の声は上ずっている。
「店の外はあんなに汚いのに、、、」
僕は言ってからしまったと思ってアントニーおじさんの顔を見た。
「そうだよな!向こうを綺麗にするよりも、こっちに力が入っちまってなぁ」
アントニーおじさんは怒っていないみたいだ。
というより、この人の目もさっきより大きくなっている気がする。
とびっきりの笑顔で、すごい幸せそうだ。
なんか信頼できる気がする。気のせいかもしれないけれど。
「さて、おじさん!私とこの子にエアフォース1を出して!」
チャールズ先生が決め台詞かのように声高らかに宣言した。
ん?エアフォース1ってなんだ。
「おう。定番のホワイトでいいのか?」
アントニーおじさんの質問にチャールズ先生は元気よく返事をする。
二人で勝手に話は進んでいく。
でも僕は未だに理解できていない。
エアフォース1?定番のホワイト?
この中にあるスニーカーのどれかなんだろうが、僕には検討がつかない。
強いて言うなら、ホワイトだから白いなんだろうなってことぐらいはわかるが。
「見た感じ、お前らこのサイズでいいだろう。」
そう言って、アントニーおじさんがシルバーの箱を持ってきてくれた。
その箱を開けてみると、本当に真っ白に輝いているスニーカーがあった、、、
続く。
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